平成17年(2005年) 12月11日(日)

昨夜から初雪が降り続いている。


止みそうもないが、貴重な休日、午後になって出かけることにした。
飯山中央橋の上流で、舟をおろし、さて、と、空を見上げた。
一瞬、「やめとけ」と、声がしたような気がした。
いつもなら、ここから上流へ向かうのだが、「逡巡」が下流へと向かわせた。
雪は激しく降り続いている。この地方で言う「掻き落とすような」降り方だ。
風はない。ま、問題ないだろう。

雪の日は、舟の水音がかき消され、すぐ近くまでカモが気付かない。
今日は期待できる、とニンマリ。浅瀬で、ガリガリと舟が川底をこすった。

しばらく下って、マガモのつがいが飛び出した。
船べりに置いた銃をつかんで、狙った。雪でたちまち見失う。
なんて降りだ。
20m先が見えない。
船外機のハンドルを左手でつかみ、右手で銃を握りしめ、すぐ発射できる態勢で流れを下る。
と、川岸の繁みから、カルガモがすーっと泳ぎ出てきた。
飛び立つ前に、発射。命中。
よしっ!幸先がいいぞ、これなら1日捕獲上限の
5羽まちがいなし。
と、言いたいところだが、こんな降りだ。
ひとつ獲れたからもういいや、帰ろう。

軟弱なハンターは、舟を反転させると、エンジンを全開にした。
膝の上の雪は、払っても、払っても、どんどん積もる。帰路を急ぐ。
くだんの浅瀬に来た。全速で航行。ガリガリガリ!舟は力なく停止した。
下流に戻して、再度、挑戦。ダメ!

何度も試みるが、降り続く雪に視界を遮られ、航路が見つからない。
そうなのだ。
ここは、
50m以上ある川幅の中で、舟が航行できる深みは、幅わずかmほど。
それを探しあてなければ、のぼれない。
飯山地方を悠々と流れる千曲川、その唯一の難所なのだ!

小1時間、繰り返したが、ダメ。
こうなれば舟を引っ張って、のぼるしかない。浅瀬で舟を降りた。

ズブズブと、太ももの辺りまで沈んだ。
しまった。このあたりは底なしといわれ、昔、泳いでいて何人も死んだと聞いている。
あわてて、また、舟に乗り込んだ。

あたりは、薄暗くなり始めていた。胸の携帯電話に手をやった。
瞬間、テレビニュースが目に浮かんだ。 
・・・きょう午後、飯山市の千曲川で、舟に乗ったハンターが遭難し、救助されました。
   大雪の中での、無謀な出猟が原因と思われます・・・

そっと、携帯から手を離した・・・冗談じゃない。恥さらしだ。
思わず悔恨の一人ごと。こんな雪の日に、出て来なきゃよかったんだ。
うちでテレビでも見てれば、今頃は風呂に入って、熱燗で一杯やってる頃だ。
ばっかだよなー、おれって・・・

雪は降り続いていた。日が暮れて、灯りが遠くでまたたいている。
そうだ、押してもダメなら、引いてみろ、というではないか。のぼりがだめなら、下ろう。
舟を運んだ軽トラへは戻れないが、無事、帰れればいい。
決断すると、暗くなった川面、慎重に舟を操りながら、30分ほど下って、橋のたもとにつけた。
ここなら、降り続いても、橋が屋根代わりになる。
雪の重さで沈没することはあるまいと、舟を降りた。

しかし、道路まで500mもある。
銃をかついで、虎の子の鴨と、燃料タンクを持ち、杖代わりのスコップも持った。
着ている胴長は、靴底のフェルトが剥がれて、つるつると滑った。
新雪は、腰までに達していた。
500m
30分かかって、ようやく道路に辿り着き、家人の車に回収された。
日は、とっぷりと暮れていた。

その日は、記録的な大雪になった。
家に帰ってみると、胸の携帯電話が見当たらない。
落とした場所は予想できたが、もう一度、現場へ戻る気にはなれなかった。
雪は、その後、
1週間ほど降り続いた。
舟を残してきた川岸へは、雪がやんで更に数週間して行ってみた。
舟も船外機も、雪に押しつぶされ、変わり果てた姿になっていた。

春になった。
インターネットで、新しい舟を探し始めた。
今度のは、飯山から長野まで航行できる舟でなければならない。
それには鋭い船首が必要だ。
エンジンは、一人で運べる重量、それでもって、急流をさかのぼれるパワー。
燃料タンクは・・・もちろん、「前の」でいい。

なんとまあ、懲りない性格!
そう ・・・ ハンターとは、そういう人種なのです。