地球の反対側からメールを頂戴した。このあたりの空家を購入して、雪のある生活を楽しみたいという。
この地域、若者が都会に行ってしまい、空き家が増加している。ありがたいことではあるが、ちょっと待ってほしい。多くの業者も住宅の所有者も、売ることだけを考えて、あとは知らん顔。困るのは買った人と、近隣の住民だ。実際、田舎暮らしにあこがれて購入したものの、始末に困って放置。屋根雪落下の危険性で地域住民が迷惑している事例もある。
トラブルになる前に、正義の宅地建物取引主任者=私、の話を聞いてほしい。

吉田兼好は、徒然草に「家のつくりようは夏をむねとすべし。」と書いている。が、私は「雪国では、冬を旨とすべし。」であると思う。普通、住宅は放っておいても、壊れるような心配は、まずない。雨や風だって、災害と言われるほど強烈でなければ問題ないだろう。しかし、1mを超える雪は違う。まったく何もせずに放置すれば、家が壊れる可能性は非常に高い。因みに、降ったばかりのふわふわの雪、1㎥の重さは50㎏ぐらい。これが、幾日か経つと、固く締まって500㎏にもなる。屋根の上に1mの積雪があれば、普通乗用車を隙間なく載せた状態だと思っていい。だから、雪国の住宅は、雪のないところとは、柱の太さが違う。初めて東京に出てアパートに住んだ時、その柱のあまりの細さに慄然とした。

当地、大概の住宅屋根はトタン葺き(亜鉛メッキ鋼板)、雪が降れば滑って落ちる。瓦屋根はまったくない。ただし、これもずっと放っておけば、塗料が劣化して滑らなくなる。最低でも10年に一度くらいは、塗装が必要だ。これだって業者に頼めば、10万円以上は請求されるだろう。
さて、滑って屋根から落ちた雪。やれやれ、では済まない。例えば、1昼夜で1m積ったとする。屋根の雪が全部落ちると、どうなるか?地面に積った雪の上に落ちるのだから、つごう、倍以上になる勘定だ。
2昼夜も降り続けば、あっというまに二階を越えて、屋根まで届く。屋根に届いた雪は地面とつながって、融けながら重くなって下方へ引っ張り、屋根を壊す。だから、屋根とつながらないための除雪は、最低限必要だ。

住宅の形も重要。雪で困らないのは、長方形の箱に屋根をのせたような単純な形の家。このあたりでは「物置づくり」と言っている。玄関や出窓など、体裁よくしようと作った部分は、ほとんど除雪のじゃまになる。雪が積もって初めて、「あー、ここの部分は失敗だった」と自覚する。ともかく、単純な形が最良。また、農家には必ず付いている付属建物、雪が積ったら始末に困る。雪国では、建物の数が多いほど負担が増える。そして、建物の周囲、除雪機が1周できるように、何もないのが一番いい。庭木、庭石は除雪の障害になる。築山など、もっての外。「しかし、それじゃあ殺風景だし、第一、夏、暑くて仕方ないだろう。」ごもっとも。で、私は、表も裏も、芝生にしている。これなら、除雪に困らず、体裁も悪くない。

そうそう、水の考慮も重要。
「飯山は雪が降るけど暖かい」と、よく言われるが、これは間違い。正確には「家の回りじゅう雪だから、実質的には冷凍庫の中。夜間の冷え込みは厳しいが、標高が低いので、昼は気温が上昇する。」凍結防止帯に通電しておきさえすれば、水道が凍ることは、まずない。しかし、停電、雪の重みでコンセントが外れるというトラブルもある。トイレ室内が零度以下になれば、便器の洗浄水も凍る。常時生活するのでなければ、留守にする間の凍結破裂に備えて、水道元栓を閉めておく配慮が必要だ。でなければ、家じゅう水浸し、春になって水道料金に腰を抜かす。

除雪される幹線道路から、住宅入口までの距離も重要。
公道から玄関までは、住人自ら除雪しなければならない。この距離が長ければ、雪が降るたびに重労働を強いられる。例えば我が家、道路から玄関まで、約20m。1m積雪があれば、20㎥、約4畳半の部屋一杯の雪、重量1t以上をどけなければ、道路に出られない。既に3mの積雪があったとすれば、手作業では至難の業。しかし、母屋から「親父の隠れ家」を通れば車庫、その内側からシャッターを上げれば、まったく屋外に出ることなく、即公道。こういう造りが、らくちんでお勧め。
雑木林の中の私道を、のんびり歩いて公道へ・・・夏ならステキですが、雪があれば悲劇です。

農村部には商店がない。昔あったのも、大型店や幹線道路沿いのコンビニ進出で姿を消した。我が家から360度ぐるりと見回して、商店は1軒だけ。このあたりでは平均的な環境だと思う。最寄りのスーパーまでは3㎞。途中標高差30mの丘を越える。したがって、大抵の家庭では、一人1台自家用車を所有している。車庫がないと、冬は大変。雪が降るたびに、車を掘り出さなければならない。ただ、コストとリスク、車庫の除雪まで考慮すれば、タクシー利用の方が、安上がりかもしれない。

こう書いてくると、「雪国の暮らしは大変だから、おやめなさい」と言いたいのだと、思われるだろう。
そうではない。これらをチェック項目と考え、物件を取捨選択することによって、快適な田舎暮らしが実現できる、と言いたいのだ。まずは自分の目で確認し、しかるのちに、体験してみる。それには、豪雪の今が、最も適している。
月が変わって2月になれば、「いいやま雪まつり」「信濃平かまくら祭り」もある。気楽な観光に、ちょっと雪のある暮らしを体験。住人との交流を通して、地域の気風にも触れ、あわよくば優良物件の情報を得、除雪協力者まで獲得しちゃったら・・・なんて、想像するだけで、実に愉快じゃー、ありませんか!